私の部屋からは、町の果てに連なる低い連山を眺めることができる。
季節によって色を変化させる美しい山々を窓の外に、お気に入りの紅茶を淹れ、そして目の前のデスクにコロコロと宝石を転がして過ごす時間が好きだ。
自然光を透かし反射させ、職人たちが磨き上げたサファイヤやルビー、そしてとっておきの一粒ダイヤのネックレスが得も言われぬ輝きで私を満たしてくれる。
ひときわ吸い込まれそうな神秘的なブルーを放つ大粒のオールドマイン・カットのサファイヤは、二十代の後半、勤めていた会社を辞めて数か月米国を放浪していた時に原産地のモンタナをこの足で訪れ、購入した思い出の品。
ロイヤルブルーとも称されるサファイヤの美しい色味は、本来無色透明であるコランダムというベースの石に、複数のミネラルが結晶となり組み合わさることで生じる奇跡の、彩。
コランダム、チタン、そして鉄。どれも母なる大地が産み出した、自然の内にひそかに息吹くだけのはずだった元素たち。それが、ある偶然をもって恐ろしいパワーで押しつぶされ。やがて数万年という時を経て鉱脈となり、騒がしいアメリカ男たちによって掘り出され、磨かれて、宝石となって市場に並ぶというわけだ。
宝石たちと眼前のわが町の景色。そして、私の身体の中にも、不思議なことに、同じ元素が異なる形で存在し、その生命を息づかせている。
そんな命の不思議に感謝と安らぎを寄せられるから、私は宝石と過ごすこのひと時を何よりも大切にしている。
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